B:雄喰いの毒婦 グアス・ア・ニードル
コンガマトーって虫は、雄よりも雌の方が、体格もいいし力も強い。交尾の後には、そのまま雌が雄を食ってしまう、そんな凶暴性すら持ち合わせているんだ。
男としては、雄に同情しちまうがな……。
で、この「グアス・ア・ニードル」ってのが、毒婦とでも言うべき、恐ろしい雌コンガマトーでな。何匹もの雄を喰らい、驚くべき巨体を手にしたんだ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
相方が岩を背にしてあたしの顔を見ながら自分の背後をちょんちょんと指さした。
あたしは物を音を立てないよう慎重に岩陰から顔を出す。10mほど先の地面に細い体を伏せるようにしている何かが居た。細い体は弓なりに丸まっているが、まっすぐ伸ばせば大きさは3mくらいはありそうだから普通の個体の倍くらいだろうか。体の両脇に半透明で細いトンボのような羽を4枚持っていて、4本の手足らしきものがついている。毒々しい体の色を度外視してタツノオトシゴに羽を着ければこんな感じだろうか。
細い体が動くたび、バリバリと何かを割るような、千切るような音がしている。
「食事中だったかしら?」
あたしが息を漏らすくらいの声でそういうと、相方が苦笑しながら言った。
「どうやらそうみたいね」
そう言いながら盾を握り直し相方は剣を抜いた。
「ま、満足するまで待ってあげる必要はないけどね」
相方は立ち上がって岩陰から出る。あたしもそれに続く。
甲殻のない柔らかなお腹を空に向けて転がるオスのコンガマトーの死体に顔を突っ込んでバリバリと音を立てていたそれは顔を上げ、振り返るように此方を見た。
「お口が汚れてるわよ」
あたしがそういうのと同時にとブーンと蜂の羽ばたき音を大きくしたかのような不愉快で不気味な音をたて羽ばたく。荒れた大地から砂埃が舞った。体が浮きあがるとホバリングしながら顔の向きまで体を旋回させてこちらを向いた。
通常のコンガマトーの倍ほどの大きさのそれはグアス・ア・ニードル、通称「毒婦」と呼ばれている。
見境なく手当たり次第にオスと交尾しては、交わったオスを食べてしまう、そんなところから「毒婦」と呼ばれるようになったらしい。クラン・セントリオの男性担当官は「男としては、雄に同情してしまう」と言っていたが、昆虫や魚類では大して珍しい習性ではないし、より優れた遺伝子を欲っするのは本能の働きだろう。グアス・ア・ニードルは地面とほぼ水平だった体を立ち上がる様に垂直に立てた。おそらく蜂のようにお尻の方に攻撃器官があるのだろう。グアス・ア・ニードルは腹を丸めるようにしてお尻の先端をこちらに向けホバリングしたかと思うと、次の瞬間素早く動いた。
相方はグアス・ア・ニードルのお尻を盾ではじくと一歩飛び下がる。グアス・ア・ニードルはハチドリのような動きですぐに元の位置に戻りホバリングしている。その巨体から想像していたのより数段上のスピードだった。
「早いやん‥」
相方は言った。
「だけど、...対応できない程じゃない!」
そう言い捨てると相方は助走をつけてグアス・ア・ニードルに飛び掛かる。盾を前に押し出したまま、剣を振りかぶると縦方向に斬り付けた。グアス・ア・ニードルはそれを旋回して躱すと、一瞬後ろに体を引き、再び勢いをためて相方に襲い掛かる。それを読んでいたかのように相方は着地と同時に今度は振り返りながら剣を横に払った。剣の切っ先がグアス・ア・ニードルのお尻の先をはじき、グアス・ア・ニードルは態勢を崩しフラフラと動きが止まる。その瞬間、グアス・ア・ニードルに炎が滝のように降り注ぐ。予め詠唱を済ませておいたあたしの魔法だ。
グアス・ア・ニードルは物が擦れるようなチキチキという音を口から発しながら炎に飲まれ地面に落ちた。
「まだよ!」
油断などしていない事はわかっていたがあたしは相方に声を掛けた。